長大橋主塔の振動制御



 近年,開場交通手段として瀬戸大橋,明石海峡大橋,来島大橋に代表されるような長大橋の建設がなされてきた.その背景としては,島国である日本にとって長大橋の架設は,物資の運搬という観点から,コストや運搬時間削減という面で大きなメリットがあることが考えられる.そして将来的にも,長大橋の架設は国土開発としてのウォーターフロント構想の一環として,その必要性が予想される.
 このように今後も長大橋に建設が盛んに行われることが予想されるが,この長大橋建設時の深刻な問題の一つに,長大橋の支柱である主塔の風による振動問題が挙げられる.主塔の建設時,すなわち釣り橋のロープが張られていないとき,主塔はそれ自身に十分な減衰能力を持ち合わせないので,風により励振され振動が発生する.風が大橋を励振した例は過去にアメリカのタコマ大橋であったが,その威力は脅威的である.更にタコマ大橋の場合は釣り橋のロープが張られていたので,橋自身の減衰能力は建設時の主塔のそれより高かったと考えられる.この例からも,主塔建設時においてロープが張られていない主塔単体の振動制御の重要性が認識できる.また,当然のごとく主塔の振動は,作業効率の低下はもちろん,作業時の危険性をもたらすであろう.
 そして,最近の建築物全般にいえることだが,各部材の軽量化が進み構造特性が「剛」から「柔」になってきている.主塔もその例外でなく柔構造化が主流となってきている.そこで,これにより今まで高い周波数で起きていた高次振動モードが低周波に現れ,1次や2次モードの単純な曲げ振動だけを扱ってきたこれまでの研究では,この高次振動モードの問題に対処できない.また,このような高次の振動は単純な曲げモードだけでなくねじれモードも含み,このねじれモードが主塔の破壊原因につながることが知られている.本研究は,このような背景から主塔の曲げモードだけでなくねじれモードを含めた多自由度系振動制御の提案を行うものである.

 一般に,主塔のような柔軟構造物は分布定数系特性を有するので,これに現代制御理論を導入し振動制御するには,制御のための集中定数系低次元か物理モデルの作成が必要である.しかし,本来無限自由度の振動モードを有するような柔軟構造物に対して安易に制御対象モードのみに注目して低次元化を行うと,無視した高次モードがスピルオーバと呼ばれる不安定振動を発生させることはよく知られている.