日本大学理工学部機械工学科堀内・安藝研究室Vehicle Dynamics and Control Lab.

研究テーマ

可制御領域の比較に基づく車両運動性能の解析的評価

各種の制御理論を応用し,車両の運動性能を向上させるためのシャシ制御系が数多く提案されています.例えば,ハンドル角に対して動的に前輪を制御するアクティブ前輪操舵(AFS),前輪だけではなく後輪も操舵する四輪操舵(4WS),左右輪の前後力差による直接ヨーモーメント制御(DYC)などが実用化されています.

これらのシャシ制御系の性能は車両モデルを用いたシミュレーションや実車実験によって評価されますが,これらの方法はシミュレーションや実験の条件によって評価が異なるため,より確実な評価方法が必要と考えられます.

そこで,「可制御領域」という概念を用いて,各種シャシ制御の効果を統一的に評価する方法を提案しています.可制御領域とは,与えられた範囲の入力を用いて安定な平衡点に到達可能な初期値の集合と定義されます.自動車で言えば,許容された操舵角やタイヤ力の範囲内で,安定な直進状態に戻ることのできる範囲を表します.この範囲が大きければ大きいほど,車両が不安定な限界状態に陥っても,前輪舵角や左右輪のタイヤ前後力差を用いて,安定な直進状態に戻ることが可能となります.この意味で,可制御領域の大きさは車両の限界領域における運動性能を評価する指標と見なせます.

また,可制御領域を用いると,下図のような「制御方式」の性能との「制御則」の性能を区別して取り扱うことが可能になります.

左の図は「制御方式」の評価を示しています.制御方式とは,前輪操舵角,後輪操舵角,各輪の制動・駆動力など,異なる入力チャネルの中で,どの ような入力の組み合わせを用いて車両を制御するかを表すものです.横・方向の運動制御であれば,通常の車 両は前輪舵角入力のみを用いますが,DYCでは前輪舵角に加え左右輪の差動ブレーキ力,4WSでは前輪舵角に加え 後輪舵角を用いるなどいくつかの制御入力の組み合わせが考えられ,この組み合わせによって制御性能が異なります.

これに対し制御則の性能とは,右の図のようにドライバからの操舵・制動などのコマンドに対して,種々の制御系設計手法を用いて設計された制御則が どれだけ有効に前輪操舵角,後輪操舵角,各輪の制動・駆動力など利用して運動を制御しているかを意味します,.高性能な制御則は制御方式の限界までの性能を発揮すること ができますが,当然のことながら,制御則の限界は制御方式の限界を超える事はできません.制御方式の限界にどれ だけ近づく事ができるかが制御則の性能を表す指標とな理ます.従来のシミュレーションによる評価ではこれらを区 別が曖昧だったため,シャシ制御の限界が制御方式によるものか,設計された制御則の性能によるものかが判定できませんでした.

本研究では,可制御領域の境界を求める問題を一種の最適制御問題として定式化し,数値的な最適化手法を用いて可制御領域を求めました.その一例を下図に示します.

左の図は,前輪のみ操舵する2WS制御方式と前輪と後輪を操舵する4WS制御方式の可制御領域を比較したものです.この図からわかるように,4WSの可制御領域は2WSの可制御領域よりも広く,4WSの方が限界走行状態から安定な直進走行状態に戻る能力が高いことを示しています.しかし,可制御領域が広がっているのは第1,第3象限のみで,第2,第4象限では2WSと4WSの可制御領域はほとんど同じであることがわかります.

破線の水色で示された領域は前輪舵角0度に対する不安定領域で,この水色の領域より原点に近い範囲では,前輪舵角を0度に固定したまま安定な直進走行状態に戻れますが,水色の不安定領域からは前輪舵角を0度に固定したままでは安定な直進走行状態に戻ることはできません.図からかわかるように,不安定領域にも可制御領域が広がっており,車両が不安定状態に陥っても舵角を最適に制御することにより安定な直進状態に戻ることができることができることがわかります.

右の図は前輪の左右前後力差によるDYC制御方式の可制御領域を示しています.4WSと比較して,第2,第4象限で可制御領域が広がっています.これは,4WS制御方式の効果が現れない第2,第4象限でもDYC制御方式が有効であることを示しています.

これらの結果は「制御方式」の効果を評価したもので,舵角やタイヤ前後力を制御するコントローラの性能とは無関係です.

関連する論文

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  • 堀内伸一郎,可制御領域の解析に基づく車両運動性能の評価(可制御領域の計算アルゴリズムとタイヤ特性が可制御領域に及ぼす影響),日本機械学会論文集,Vol. 81,No. 826,2015, DOI: 10.1299/transjsme.14-00078.
  • Horiuchi. S., Evaluation of Chassis Control Algorithms Using Controllability Region Analysis, Proc. 24th International Symposium on Dynamics of Vehicles on Roads and Tracks, USB memory, Graz, Austria, August, 2015.
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