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振り子式同調型制振装置の研究

(地震に負けないマスダンパーを作ってみよう)

 最近、都市部において3階建て住宅が急増しています。狭い土地事情の影響により、居住空間を増やすために高さ方向へ空間を求めた結果であり、今まで1階や2階建ての住宅では問題視されなかった交通振動による住宅の揺れが問題となっています。
交通による揺れは、周辺地盤や建物の振動特性(振動モード)に依存する特徴を有し、地盤の極めて小さな振動でも建物上で増幅され、生活に支障を来す問題に発展する場合があります。つまり、今までの軽量鉄骨や木造構造をそのままの状態で1階分高くなったために、建物の水平方向1次モードの固有振動数3〜4Hzまで下がり、直接的な高速道路や幹線道路の走行により発生する車両振動や橋の揺れなどによる振動数は約3Hzの振動成分を持っていると言われており、これによって加振され、建物が共振することによって建物の揺れが増幅されます。そして,その揺れは甚だしく居住性を損なうことになります.
  この対策法として,
 [1]加振源対策(交通量の規制など)
 [2]振動伝達経路対策(地盤特性の改良,側溝・免震)
 [3]建物自体の制振
などが考えられます。
 [1]は,振動の発生原因を絶つために、加振源にて対策をする方法で交通量の規制等があげられます。[2]は,地盤特性の改良、免震等を行い、加振源との振動伝達経路遮断する方法があります。防振溝、杭うち、べた基礎などが実施されていますが、一般に十分な効果は上がっていません。
 また,免震装置は神戸地震以来,地震対策として大型ビルなどに導入されていますが,住宅は軽量なため,支持が柔軟になりすぎる問題や,構造システムとしては一定の固有周期を持たざるを得ないために,地盤条件によっては共振の可能性さえあります。[3]は,近年注目されている方法として,高層ビルや長大橋建設の分野では,主として風による揺れを抑制するために,アクティブ振動制御の実施例が報告されており,これらの技術を導入すれば,今回の住宅の揺れ問題に対応できると考えられます。


 しかし、実際に一般住宅に適用する場合では、コンピュータ制御されるA.M.D(Active Mass Damper)などの高価な制御装置を付帯させるにはコスト的に無理があり、またメンテナンスや設置スペースについても高層ビルとは条件が違い制限が多いのが現状です。また,安価なパッシブ型の制振装置として動吸振器,別名TMD(Tuned Mass Damper)の採用が検討されています.しかし,動吸振器の制振性能は質量比で定まるために,居住性を良くするには大重量の動吸振器を屋上付近に設置することになり,大地震に対する不安要因を内在することになりかねません.そこで、本研究では一般の個人住宅に標準装備が可能な、安価で高性能なパッシブタイプの制御装置として,振り子の拡大機構を用いたP.T.M.D(Pendulum-type Tuned Mass Damper:振り子同調型マスダンパー)を提案し,3階建て一般住宅の制振に有効に適用できることを検証したいと思います。P.T.M.Dの特徴は,レバー機構を有することでレバー比に応じて,パッシブ型のマスダンパーの制御性能を決定する質量比を等価的に拡大させ、軽量でも大きな制御力を建物に作用させることができることを可能とします。そのため,1階に設置することも可能であり,動吸振器のような大地震に対する不安要因は起こらない.
 今までの研究ではP.T.M.Dの制御性能を正確に表現できる数値モデルを構築し、スケール模型を用いた制御実験でそのモデルの妥当性を検証しました。それによると、提案したP.T.M.Dは従来のT.M.Dと同じ重さの重りを1階の地面付近に配置しているにも関わらず、従来のT.M.D以上の制御性能を持つことが実証されたのでそれをまず報告します。しかしながら今までの研究では,制振対象が1自由度系であり,また,制振装置の形状・構造の制約はあまり受けませんでした.
 今回の新しい研究では,制振装置は3層構造物であり,設置場所は1層目に限定することにします.また,支柱に内装できるような軽量でコンパクトな形状が求められます.本研究はそのような制約の中で本制振装置の最適設計法を得ることを目的としており,製作した模型装置によってシミュレーションを行い,本PTMDの有効性を検証したいと思います.
■振り子同調型制振装置(P.T.M.D)の構造
(A) (B)
 

図1 T.M.DとP.T.M.Dの設置概念図
従来のT.M.D(A)と本提案のP.T.M.D(B)を3階建て住宅に設置した場合の概念図を図1に示します。
 住宅の揺れ問題における,制御の対象モードは通常1次曲げモードであるため,従来のT.M.D(A)は質量比を大きくとれる最も効果的な場所として,制御対象の等価質量が小さい屋上に設置します。それに対し,(B)のように設設置されたP.T.M.Dはレバー機構を有し,レバー比に応じて,質量比を上げることができるので,制御対象の等価質量が大きい2階のフロアー部に作用点を設定しても同等以上の効果を得ることが期待されます。その結果,P.T.M.Dは不安定な重量物である慣性重りを安全な地面近くに置けるメリットが生まれます。また,作用点を3階のフロアー部に設置し,地面から支点の支持をすることができれば(つまり,2階のフロアーを貫通させて)更に大きな制御効果が期待できます。本研究では,実際の3階住宅に設置がより容易と考えられる図1-(B)の設置方法を選択し検討を進めることにします。
 解析に置いては,図1に示すT.M.DとP.T.M.Dの制振性能の比較を行うことによってP.T.M.Dの実用性を調査します。

■装置概要
 図2に本研究で制御対象とする3階住宅のスケール模型を示します。全重量は約47Kgでm1〜m3の鉄板が2,3階及び屋上の各階フロアーを表し,各階の壁は平行板バネで構成され,1方向のみを制御対象とします。1〜3次モードはすべて曲げモードで固有振動数はそれぞれ,4.8Hz,12.7Hz ,18.2Hzです。1階-2階フロアー間にはP.T.M.Dを設置します。振り子の支点を支持する支持構造物はレバー比を確保するため地面から高く立ち上げる必要があり,柔軟な構造となっています。P.T.M.D模型の支点は地面から立ち上げた細い角シャフト上の平行板ばね(同調の調整用バネ要素kd) を介して取り付けてあり,2階フロアーに作用点が設置され,レバー機構を構成しています。ここで,平行板ばねは,主振動系の固有振動数と支持構造物の固有振動数の変化に対応するため,制御対象の適応範囲の拡大に伴うことを兼ねて用いています。また,振り子の重りには地面に設置された永久磁石と銅板から成る磁気ダンパーにより減衰力(cd)が与えられます。てこ比は重りを上下させることで変更が可能であります。
 また,本研究では,図1-(A)の従来T.M.Dの制御効果をP.T.M.Dの性能の評価基準としています。屋上フロアー(m3)には,平行板バネと磁気ダンパーで構成され重りの質量を同じにした従来型のT.M.Dを取り付けることができ,制御効果を比較することができるようになっています。


図2 3階住宅模型とT.M.D&P.T.M.D
■力学モデル


図3
 分布定数系構造物や多層構造物の集中定数系モデル作成法は著者等によって提案され実用性が種々の構造物によって立証されています。図1に示す3層構造物の場合,3自由度系モデルが容易に作成できるように思われますが,支柱の質量をどのように見積もるかが問題となります。著者らの方法によれば,支柱の質量を含めた形で図3のような力学モデルが作成できます。図3は3層構造物に図2に示したスケール模型のP.T.M.D含めた力学モデルを示します。
   m1,m2,m3は2,3階,屋上フロアーの質量,k11 からk33は3階構造物の各階のバネ定数であります。P.T.M.Dはm1から吊り下げられ,l/aはレバー比,mdは振り子の質量,J=mdl2は振り子の慣性モーメント,k1は振り子回りのねじりバネ定数であります。支持構造物は地面から設置されている必要がありますが,柔軟構造であって良いのです。mfkfはその等価質量と等価バネ定数であります。また,kdは同調用の調整バネ,cdは減衰係数であります。以下に前節のスケール模型の物理定数を示します。
制御対象とP.T.M.Dのパラメータ
  m1=20 , m2=18  ,m3=15 ,
  md=1.3 , mf=0.15 (Kg)
  k11=63370 , k12=75060 , k13=310 , k22=3210 ,
  k23=72600 , k33=-410 (N/m)
  kts=8(Nm/rad)
  J=0.0184 (Kgm2) cd=15 (Ns/m)
  l/a(レバー比)=4.17
比較用のT.M.Dのパラメータ
  M=1.3 (Kg), K=1100 (N/m), C=9(Ns/m)

■シミュレーション結果


図4 シミュレーション 周波数応答
 従来のT.M.DとP.T.M.Dの制御効果をシミュレーションにて比較してみます。図4は,質点m3を加振したときの変位x3を観測した周波数応答を表しています。
 グラフのNon controlは非制御,With TMDは従来からのT.M.Dを使って制御した場合,With PTMDは本研究で提案しているP.T.M.Dを使って制御した場合です。制御対象の1次モードの等価質量は,2階フロアーと屋上フロアーでそれぞれ,90Kgと32Kgです。よって,同じT.M.Dを使って制御しようとすると,2階フロアーにT.M.Dを設置した場合の制御効果は,屋上フロアーにT.M.Dを設置して制御した場合より悪くなります。2階フロアーに作用点を設け,T.M.Dと同じ重さの慣性質量を使ったP.T.M.Dは,屋上設置のT.M.Dより,良い制御効果を示しています。もし,同等の効果をT.M.Dの質量を増やして実現しようとすると,3Kg,すなわち2倍以上の重りが必要であることが別計算で分かりました。また,本システムでレバー比をさらに大きくして制御効果を向上させることも可能です。ただし,その場合,P.T.M.Dの同調させるために支点支持構造物の剛性kfを大きくする必要があります。
 本実験装置のレバー機構の支点は回転方向が自由で上下方向は拘束されているため振り子回りの回転角度に比例した復元力が発生すると考えられます。本シミュレーションではP.T.M.Dの振り子回りのねじりバネ定数を装置全体のF.E.M解析結果から同定し,kts=8としています。このねじりバネ定数が大きくなるとあたかも質量比が下がったように制御効果が悪くなるのが興味深いと思います。P.T.M.D制御性能に影響する重要なパラメータであるので,できるだけ小さくなるように本実験装置では,同調の調整バネkdを平行板バネとしています。





■インパルス加振実験


図5実験結果 周波数応答
 質点m3(屋上フロアー)をインパルスハンマーで加振し,ギャップセンサーで絶対変位x3を実測して得た周波数応答結果を図5に示す。グラフのNon control,With TMD,With PTMDは前節のシミュレーションと同様の条件にて実験した結果を表している。 実験結果によると,本研究で提案するP.T.M.Dはシミュレーション結果と同様に,従来のT.M.Dよりも制御性能が良いことが分かる。また,実験結果とシミュレーション結果は良く一致しており,本システムでP.T.M.Dの制御性能を推測することが可能である。
※途中工事中のため暫くお待ち下さい
■結論
 3階建て住宅のスケール模型による制御実験を行いながらその制御モデルの構築を行ったところ,本研究で提案したP.T.M.Dを用いた構造物の制御効果を表現できるシステムができた。本P.T.M.Dの従来のT.M.Dと比較した特徴をあげると次のようになる。
(1)制御装置の設置条件の悪い,等価質量の大きな場所に設置しても,P.T.M.Dのレバー比を活用することで,従来T.M.Dより優れた制御効果を得ることができる。また,制御設計のパラメータを調整することで,同性能であれば,装置を軽量化,コンパクト化させる設計も可能である。

(2)従来のT.M.Dは屋上に設置しなければ十分な制振性能が確保できないが,不安定重量物を屋上におくことは安全上,好ましくない。(1)に示した特徴を持つP.T.M.Dは地面付近に重りを配置することができ,大地震時の2次的な損害を回避できる。

(3)従来のT.M.Dは,設置するための専用匡体が必要であり,それは屋上などに設置された時美感を損ねる恐れがある。P.T.M.Dは構造上スリム縦長であるので住宅外壁の内部に設置できるため,この点も優れている。
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