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防振ハンドルの最適設計
 産業技術の発達の歴史を振り返る時,道具による生産工程が,機械化,自動化されていくようになってきた.この過程で手持ち振動工具は,道具に動力を取り付け,作業者の大きな労力を節約し,能率の向上をはかることを目的に工夫されてきた.手持ち振動工具のメリットは使用時のエネルギー消費の減少,疲労の減少,生産性の向上,危険の減少などがある.生産性について一例を挙げると,削岩機でエネルギー消費が1/6に,生産が3倍になったとすると,同じエネルギー消費で見る生産性は18倍になる.チェンソーで,エネルギー消費が1/2〜1/3になり,生産性高が3〜4倍になったとすると,同じエネルギー消費で見ると,生産性は6〜12になる.安全を考慮した実際の作業では,こんなには生産性が上がらないだろうが,いずれにしても生産高は一気に数倍にもなり,経済的な効率は極めて大きなものがある.特に近年,小型で効率が高い電動機や空気タービンを利用したグラインダー,インパクトレンチなど気動や電動工具などの小型手持振動工具は,操作が簡単で手軽に利用できることから,建築,金属加工などの産業の場で広く普及しており,産業の合理化,省力化,効率化に役立っている.

グラインダー


インパクトレンチ

 一方,手持ち動力工具が発する振動で30Hz以下の低周波数部分は手腕の筋肉や骨の共振周波数に近く,30Hz〜120Hzあたりの周波数部分は血管収縮の影響が大きいとされている.振動に寒さが加わるとさらに血管の収縮は強まる.その状態が続くと突然「白指(レイノー現象)」が現れるようになる.循環障害のために抹消神経が変性し易くなり,知覚や運動の障害が起こることがある.また,操作時の騒音も障害を起こす原因となる.難聴の引き金となったり,それに伴って血管の収縮が強まる.圧搾空気利用では,排気の断熱膨張による排気孔周辺部の温度低下が著しいため,工具を把握する手の冷えも大きくなり,さらに血行障害が深まる.
 こうした問題が起こることは,手持ち動力工具自体に,安全衛生上の危険性が内在していると言える.つまり安全衛生上の要件を備えた技術の段階にまで未だなかなか達していないということである.これらのリスクの影響は,社会経済的なリスクによっていっそう増大している.
 以上のことを考慮すると,手持ち動力工具を使用する際に適切な防振対策を施す必要があると考えられる.手持ち振動工具の振動障害を低減させるためには,工具本体の振動を低減させる方法と工具本体に防振装置をほどこしたハンドルを取り付ける方法がある.工具本体の振動低減方法に対して,カウンタータイプチェーンソーや背戸教授が提案した緩衝形コンクリートブレーカがある.工具を作業するときの挙動は複雑で外乱が多い為,理論解析することが大変難しい.そのため主に後者の防振ハンドルによって工具本体から作業者の手に伝達される振動障害を低減する方法が取られている.
この防振ハンドルに要求される項目を列挙すると以下のようになる.
 1.小型軽量であること
 2.作業性を損なわない十分な腰の強さであること
 3.構造が簡単で安価であること
これらの3項目を同時に満足するものが理想的な防振ハンドルと言うことになる.

●従来の理論と防振ハンドル
 従来,有害振動を低減するために用いられてきた方法は,振動源と振動絶縁対象物との間にばねとダンパの並列配置や防振ゴム,空気ばねなどの粘弾性要素を差入する方法(下図)とばね質量からなる動的吸振器を絶縁対象物の設置点付近に取り付けて,これのもたらす動力学の抗力を利用使用する方法などがある.



図1 力学模型

 前者は軟支持方式とでも言えるもので,設計製作が簡単なので広く利用されている.ここで絶縁対象物と差入れる要素の特性からから定まる固有振動数を有害振動の振動数より十分に小さくしなければ振動絶縁効果があがらない,固有振動数を小さくするにはハンドルの質量を大きくするか,ばね定数を小さくすれば良いわけであるが,質量を大きくすれば重くなり,ばね定数を小さくすればハンドルの腰が弱くなり作業性が損なわれる.つまりこの理論に基づいたのでは,前に挙げた項目2と3を同時に満足させることは出来ない.結局.従来の防振ハンドルでは両者の兼ね合いが難しく,防振効果も不十分なものにならざるを得なかったのである.
 一方,後者は動的吸振器の同期周波数と有害振動数が一致したときは大きな効果がもたらされるが,両者間にずれが生じた時は大幅の絶縁効果は減退する,そればかりか振動伝達を増幅させることにさえなるのである.したがって,設計製作が難しく,また有害振動の振動に変動のある場合には,その変動に動的吸振器の固有振動数を同調させるような工夫を必要とする.

●新しい防振理論に基づく防振ハンドル
 以前背戸教授が当時新しい方式の振動絶縁法(振動の節を活かした振動絶縁法の研究を発表している.この理論は,定常振動する構造体上の振動低減したい場所の節を作る方法に関するもので,下図に示すようにK,kで表した2個棒状バネとM,mで表した2個質量体よりなっている.




図2 新しい防振ハンドル

 振動の節とは定常振動下で振幅が零になる点のことである.振幅が零の点では理想的な防振効果が得られたことになる.この方式は上図より.はりと質量から成る補助要素のもたらす曲げモーメント効果を利用して振動絶縁したい場所に振動の節を作り出すことが基本の考え方に成っている.
 この理論により製作された防振ハンドルの顕著な振動低減効果が社会的に注目されている.さらに振動工具を開発段階で防振性能を満足するために,有効的な最適設計方法の確立も重要な課題になっている.
 一方,機械構造物の振動挙動を解明するために,いくつかの振動解析手法及び振動実験手法が開発されている.構造物の振動解析法としては,近年のコンピューターの発達により,実験モード解析やFEMに基づく理論モード解析手法を用いて,振動特性の向上を目標とした構造変更を行う手法が開発されてきた.その手法の一つとして,構造物の一部の質量及び剛性を変更した時の固有振動数及び固有モードの変動量を予測する構造変更シミュレーション手法がある.また,設計変数も単位変化に対する固有振動数及び固有モードの変動量(感度)を用いて,動特性の変更を行う感度解析手法がある.
 そこで,本研究では先ず,振動の節を活用した振動絶縁法に基づいて,上述のモード解析手法と設計変数の単位変化に対する固有振動数及び固有モードの変動量(反共振点の感度を用いた構造物の最適化方法)を用いて,希望する周波数及び位置で振動の節点を作り出すという防振ハンドルの最適設計を提案する.

●原理
 有害振動を遮断するため,バネとダンパの並列配置や,防振ゴム,空気バネなどの粘弾性要素を挿入した従来の振動絶縁方法は,軟支持方式と呼ばれ,設計製作が簡単なので広く利用されてきた.しかし,この方法は絶縁対象物と挿入される要素の特性から定まる固有振動数を有害振動の振動より十分に小さくしなければ振動絶縁効果を得ることは出来ない.しかし,励振下にある機械構造物が特定の周波数において特定の場所に作り出す節点,振動零の点を作ることは広く知られている.この節は理想的な振動絶縁点とも見ることが出来るが,任意にそれを作り得るものでなければ振動絶縁のためには利用できない.そこで力学モデルによって節の性質を調べてみることにする.



これが力学モデルである.質量M,m バネK,kからなる2質点系であり,Kはn個のバネの直列結合と考える.加振点変位Xinの対するバネk上に任意を点の変位Xiを置き,加振周波数ωとし計算するとXi点に振動の節が形成される.
これを元に試作ハンドルを用いハンドル上振動の節の性質を見てみる.



 上図模型は振動体と鉄パイプを結合するゴム,鉄パイプの端末に取り付けられた付加質量から成っている.試作ハンドルを加振実験することによって,節の性質について調べ,振動体が上下に振動することに対して,鉄パイプ上の1〜8番の点の加速度応答が得られる.反共振周波数で応答振幅が激減しており振動の節が形成される.この場合の反共振点は模型から計測すると80Hz〜150Hzの間に現れ,振動の節はこの周波数の範囲で形成されることがわかった.この位置は加振点から40mmのところに現れた.また,反共振点の周波数が高くなるほど節の位置が先端に移動していくことがわかった.150Hzの周波数においても節の位置はハンドル上にあり,このハンドル上の振動の節が形成される位置を把握すれば手に振動が伝わらないように設計することが出来る.
 以上より振動節点を活用した振動絶縁法で,高い剛性,相対軽量,持ち良い防振性能を兼ね備えた防振ハンドルを作れることが分かった.

●理論解析
 固有振動数や固有モードなどの構造物の動特性を希望する状態にするための理論解析方法は,伝達マトリクス方法,モード解析方法などいくつかある.特に最近は有限要素法に基づく汎用解析プログラムが広く使われるようになってきた.ここでは汎用有限要素解析システムで動特性の変動量を計算し,三次元モデルを作成してみる.前出図の模型を基に周波数応答解析を行う.
固有振動数や固有モードなどの構造物の動特性を希望する状態にするための理論解析方法は,伝達マトリクス方法,モード解析方法などいくつかある.特に最近は有限要素法に基づく,汎用解析プログラムが広く使われるようになってきた.
 本研究では上図に示した防振ハンドルの模型を基に,有限要素法による周波数応答解析を行う.実験解析により得られた周波数応答とこの解析結果を一致させる有限要素モデルを作成することが本研究の目標である.
材料特性 材料1(鉄) : 密度DENS=0.789kg/mm3;
          ヤング率EX=21000kgf/mm2;
          ポアソン比nuxy=0.33
材料2(ゴム): 密度DENS=0.100kg/mm3;
          ヤング率EX=0.28kgf/mm2;
          ポアソン比nuxy=0.48
要素性質 SOLID45(四面体);
SOLID90(六面体)
分割サイズ 鉄パイプ :X方向8分割
        Y方向1分割
付加質量: X方向5分割
        Y方向3分割
ゴム   : X方向3分割
        Y方向2分割
加振方法 変位加振 Y:±1mm; X:0
拘束方法 X=0; Y=-2〜+2; Z=0


ハンドルの設計要素
a:ゴムの長さ   b:ハンドルの直径   c:ゴムのヤング率

感度を計算する為,上のa〜cの三要素を変化させると,H点の周波数応答は以下のように変化する.

変化前 変動量 変化後 変化前
反共振点
周波数
変化後
反共振点
周波数
反共振点
周波数の
変動量
ゴムの長さ 60mm 5mm 65mm 66.9Hz 75.2Hz 8.2Hz
ゴムのヤング率 25.4kg/cm2 -1.6kg/cm2 23.8kg/cm2 66.9Hz 68.6Hz 1.7Hz
付加質量重さ 1.44kg 0.033kg 1.47kg 66.9Hz 66.3Hz 0.6Hz

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