3.どのように研究を進めているのか?

 本研究は,マルチボディダイナミクスを用いた弾性車両のアクティブサスペンション制御として,矩形平板を弾性車体に見立てた実験装置を作成した.ボイスコイルモータを搭載したアクティブサスペンションで走行時の車体振動を制御し,乗り心地を改善する.振動制御は,車体の曲げ・ねじれ振動を考慮している.これは,車体の軽量化・柔軟化に伴い高周波にあった柔軟振動が低周波に起こるようなり,搭乗者に不快感を与える振動になるためである.
 これまでの研究は,拡張低次元化物理モデルの提案及び弾性車両の制御シミュレーションを行ってきた.本稿では,作成した下記写真に示す実験装置より,拡張低次元化物理モデル・拘束条件追加法を用いてシミュレーションモデルを作成し,モデルの検証及び制御シミュレーションを元にした制御実験について報告する.



弾性車両を模擬した実験装置

●拡張低次元化物理モデル
 柔軟体の振動の表現として有効的な手法として低次元化物理モデルがある.しかし,柔軟振動のみの表現には有効的であるが,並進,回転運動の表現は不可能である.そこで,低次元化物理モデルを柔軟体の運動と振動を表現するモデルへと拡張するために,柔軟多体系へ適用可能なモデルである拡張低次元化物理モデル(Extended Reduced Order Physical Model)が考案された.
拡張低次元化物理モデルは,下図に示すように,剛体要素(rigid body element),参照剛体(reference rigid body),それらを相互に結合するバネとで構成さている.参照剛体は,柔軟体の位置と姿勢を表す.剛体要素は,柔軟振動を表し,その参照剛体に対する変形と傾斜を表す.

 参照剛体と剛体要素の各パラメータの決定は,剛体運動と弾性変形とを表現するように,表現したい振動モードの,モード形状,固有振動数らをモデルと実機とで一致させ,さらに,実質量,実慣性モーメントを,モデル全体と実機とで一致させる.これらの条件を次に示す.
a)モード質量の一致,直交性の保持の条件
b)各振動モード,運動量のゼロの条件
c)各振動モード,角運動量のゼロの条件
 これらの条件の方程式を,解くことにより剛体要素の質量と慣性モーメントは求まる.
剛性行列は,作成した剛体要素をバネで結合したとき,モデル作成に選んだモードの固有振動数が一致するように,モード行列・固有振動数・モード質量を用いて求める.
参照剛体は,柔軟体の質量,慣性モーメントが,モデルの剛体要素と参照剛体の総和と一致するように作成する.これは,モデル化対象物と拡張モデルの全体質量を一致させることで並進・回転運動を表現できるようにするためである.
 モード形状,固有振動数,質量,慣性モーメントは,FEMのデータを用いて拡張低次元化物理モデルのパラメータを決定している.
●運動方程式
 本研究の弾性車両のモデル図を下図に示す.ここで,Aは弾性車体の位置と姿勢を表す参照剛体,Bは車体の柔軟振動による弾性変形とその変形の傾斜を表す剛体要素である.これの剛体は矩形平板のFEMデータを用いて拡張低次元化物理モデルのパラメータを決定している.C剛体とD剛体はサスペンション剛体とタイヤ剛体(バネ下質量)を表している.サスペンションについては,バネと剛体の直線運動としてとらえて運動方程式を導出する.
3次元運動方程式の導出には,拘束条件追加法を用いている.拘束条件追加法の一般式を次の示す.
3次元運動方程式の導出→ 拘束条件追加法


:拘束条件追加後の質量行列
:拘束条件追加後の一般化力
:拘束条件追加前の質量行列
:拘束条件追加前の一般化速度
:拘束条件追加前の一般化力
この弾性車輌モデルの一般化速度は次のように決定した.
一般化速度Sの内容として,VOAZは参照剛体Aの垂直方向の速度,Ω' OAX,,Yは参照剛体Aのx軸.y軸まわりの角速度,hはモード変位qを時間微分したもの,VODZはタイヤ剛体Dの垂直方向の速度になる.
線形化
 一般的に,マルチボディシステムの運動方程式は非線形になる.本研究では,線形制御理論を適用するので,非線形な運動方程式を線形化する必要がある.
 拘束条件追加法より導出した運動方程式の線形化について次に示す.
平衡点周りでの線形化を行うので,平衡点と微小変化量とで運動方程式を展開する.

2次以上の微小項を消去すると
平衡点周りでの線形化として整理すると
この,運動方程式より線形制御理論を用いることができるようになる.さらに,この線形化された運動方程式を状態方程式へ変換することにより,MATLABを用いて容易に制御設計ができる.