■校友の活躍
活躍されている校友をご紹介致します
  このページに掲載する記事(コンテンツ)を随時募集しております.お気軽にお問い合わせください.(機械工学科の校友ページもご覧ください)
2007年4月掲載
宗川 浩也
いすゞ自動車(株)
昭和34年3月卒業
平成12年4月〜平成19年3月 日本大学理工学部機械工学科 非常勤講師
 この7年間、縁あって多くの先生方にお世話になり「設計製図U」の指導を非常勤講師としてお手伝いをし、若い皆さんと元気で楽しい日々を過ごして来ました。昨年暮れ古希を迎え、今年三月非常勤講師を退任しました。皆様方の温かいご支援を感謝申しあげます。


 私は1959年(昭和34年)卒業と同時にいすゞ自動車に就職しました。入社当時いすゞは大型商業車メーカから、総合自動車企業を目指し英国ルーツ社のヒルマンと言う乗用車の国産化を進めながら、乗用車の自主開発と小型商業車の開発を進めていました。当時の小型商業車としてはゆったりした運転席に小型ディーゼルエンジンを搭載して‘60年春小型トラック「エルフ」の愛称で発売を始めました。その直後から多くの改良要請が寄せられ、新人ながら改善チームの一員として、運転席の広さを維持し小型トラックに求める荷台の大きさ、さらに消防車、ローリー車など特種荷台が容易に架装でき、ダンプ車が不整地をあまり気にしないで走行出来るスプリング位置やフレーム構造などを見直し、それらを成立させる工夫、具体化方法を計算で裏付けをとりバラツキを配慮し設計を進めました。
 市場が何を求めているかは足で稼ぎ見聞きすることに尽きることを実感しました。
 その外、今までの体験から思い付くまま感じたことを纏めてみました。


[もの作りは人の縁と人の輪から]
 私たちの住む日本は、北海道から沖縄と南北に横たわり、春夏秋冬と季節感に富んでいます。どこの国にも負けない「もの作り」は、恵まれた環境のお陰で人と人の絆の強さにあると思います。日本は資源には恵まれていませんが、この自然環境が「もの作り」に必要な「人の縁」「人の輪」に「知恵」と言う資源を与えてくれていると思っています。
 環境による猿社会の例でも、タイ・バンコック郊外で見かけた一匹の猿がバナナを食べている姿は、温暖でいつでも食にあり付け一匹でも生き伸びられますが、日本猿は冬場の寒さと食糧難を克服するため、集団で生息しているのも頷けます。


[もの作りは決め事から]
 何を作るかを決め、それに対する設計目標、試作評価、工法および加工、組立て、検査、商品荷姿など、それぞれの基準や要領を定め、決めた手順通りに作業してみて、不都合があれば変えることがポイントで、標準や基準はより合理的なものに変える手段です。


[開発は現地で]
 色も形も同じ車を、東京の空の下とアメリカ・ロサンゼルスや、タイ・バンコックの空の下で見た感じは、それぞれ意外に違うことに気がつきました。日の光、空の青さと周りの景色で見え方が変わります。
 20年前インドでトラックの現地生産の指導で駐在し、現地に適した仕様を模索しました。当時インド市場にはタタ製のトラックが70%近くを占め、日本の性能の良い車もいささか宝の持ち腐れの体のようで、数十年前に読んだ本を思い出しました。敗戦国になったドイツVW社再興責任者ノルトフォフ博士の著で、フリーウエイでベンツやBMWでも、カブトムシを追い越すことは出来ないとありました。それは、前のカブトムシを追い越してもその前にもカブトムシと、列をなしてカブトムシが走っている様子を表現したもので、インドで同じ現象を体験したと思っています。
 現地に適合したもの作りは、現地の風土習慣と特に宗教を理解して進めることが肝要です。なかでも私たちは宗教に対する関心が薄いので注意を要します。今では多くの企業が現地に開発部門を置き、その地域に合ったもの作りを進めています。


[品質はお金の流れで]
 社会は「売り手」と「買い手」から成り立っています。買い手は意にかなった仕様デザインにきちんとした品質をそなえた商品を、お金で売り手と交換します。
 例えば、自動車は数万点の部品を組み合わせますが、鋼材をはじめ60%以上の部品は海外を含めた専門メーカや商社から購入します。不幸にして調達した鋼材や部品が、加工中または組立時に不良が見つかった場合、要因と再発防止を図る方策の一つに、売り手と買い手のお金の流れの経緯で探ると意外に早く解決するようです。


[使い始めた時から劣化が始まる]
 私たちの造ったものに未来永劫、そのままの状態で使用に耐えるものはありません。劣化した潤滑油や摩耗した部品を交換、ゆるんだネジを締め直すなどの手当てが必要です。あらかじめ摩耗、劣化する部品を知り、定期的な保守点検整備で長期間安心安全に使うことができます。以前、インドネシア・ジャカルタにあるスプリングメーカを訪ねた時、工場内は日本のN社K工場にそっくりなのには驚きました。その企業のオーナは工場計画時、欧州や日本企業に設備の見積もりを依頼したが、故障などで動かなくなった時、短時間で復帰させるには、実績のある設備とソフトを導入しておけば、交換部品は前もって準備でき、疑問な点は電話・FAXで問い合わせられると判断し、同じ設備とソフトを導入したと語ってくれました。


[職場では社員 外では良き市民]
 先に紹介したノルトフォフ博士の著に、VW社員は社員バッジを付けないのは、会社の中では社員であっても門の外では良き市民としての活動を期待している、と書いています。
 私もこの影響から、自分の担当した職場の皆さんには会社と家庭のケジメを付け、活性化を図る意味でも作業着での帰宅を厳禁していました。


[よい仕事は健康で明るい家庭から]
 インド・ムンバイのラジエータ企業訪問時、門のそばに真っ白いしょうしゃな建物が目につき、それを会長に訊ねると従業員とその家族のための医療施設で、良い仕事は健康からを力説していました。工場内も、自分たちの問題は自分たちで考え解決する姿勢で、日本の企業に勝るとも劣らない公害安全対策には驚きでした。


 最後に、私もいろいろな仕事に携わってきました。心がけの一つに、言葉には底知れぬエネルギーがあり、日常会話の中でも他人を傷つける言葉は厳に慎むことです。これからも「実るほど頭を垂れる稲穂かな」日本人の心を忘れないようにしたいと思います。
 言い足りないことがまだまだありますが、以上 皆様の参考になれば幸いです。

このサイトについて