日本大学理工学部機械工学科安藝研究室Vehicle Dynamics and Control Lab.

研究テーマ詳細

タイヤバースト発生時のドライバ運転行動計測および運転支援システムの開発

研究の背景

近年、高速道路では車種を問わず、タイヤのバーストに起因した交通事故が増加しています。走行中における突然のバーストは、車両の操縦安定性能を低下させ、ドライバの異常行動を引き起こすため、重大な交通事故に発展する可能性が高いとされています。高速道路走行中にタイヤがバーストすると、タイヤ径とコーナリングスティフネスの減少により車両動特性が急変しますが、ドライバが動特性急変後の車両を瞬時に正しく認知・判断・操作することは困難です。

そのため、タイヤバースト時の安全性向上とドライバの負担軽減を目的とした車線維持支援システム(LKAS)の研究開発が強く求められています。当研究室では、ドライビングシミュレータを用いてタイヤバースト発生時のドライバ挙動の調査や、操舵トルク制御方式による運転支援システムの提案と検証を行っています。

ドライビングシミュレータ
実験で使用する可動式ドライビングシミュレータ

タイヤバースト発生箇所によるドライバ運転行動の検討

タイヤがバーストした際、その発生箇所(前後左右)によって車両の運動やドライバの行動に与える影響は異なります。可動式ドライビングシミュレータを用いた実験により、以下のことが確認されました。

  • 前輪バーストの場合:操舵輪である前輪のタイヤ横力やセルフアライニングトルクが減少するため、方向が安定しにくく、ハンドル操作が重く感じられます。ドライバは直感的な操舵行動を取りやすいものの、車体が前方に傾くことによって路面が迫ってくるような恐怖感を感じる傾向があります。
  • 後輪バーストの場合:車体が後傾することにより、ドライバが瞬間的に体感する加速度の方向と、実際に操舵すべき方向が異なり、バースト直後に逆方向へハンドルを切ってしまうなど、ドライバの混乱が生じることが確認されました。しかし、最大車両横偏差が生じるまでの車両運動は前輪バーストに比べて比較的ゆっくりであるため、主観評価では「運転が難しい」と感じるドライバは少ないという特徴があります。
タイヤバースト発生箇所と進行方向の関係
タイヤバースト発生箇所と車両の進行方向(旋回方向)の関係
右前輪バースト時の応答
前輪(右前輪)バースト時の応答:
急激にハンドル角が立ち上がる。
左後輪バースト時の応答
後輪(左後輪)バースト時の応答:
バースト直後に逆ハンドルを切る挙動が見られる。

操舵支援トルクによる車線維持制御の有効性と課題

タイヤバースト発生直後にドライバが適切な操舵行動を取れない間の車両安定化を目的として、操舵支援トルクを用いた車線維持支援システム(LKAS)を構築しました。定置型ドライビングシミュレータを用いた検証により、操舵支援トルクを介入させることで車両の横偏差が減少し、車線逸脱の危険性が明確に低下することが立証されました。

一方で、強い支援トルクが介入すると、ドライバの操作意図とシステムとの間で「操作の競合」が発生し、ドライバが1Hz程度の不必要な修正操舵を繰り返してしまう可能性があるという課題も明らかになりました。

ドライバとシステム間の競合を抑制する車線維持支援システム

上述の「操作の競合」という課題を解決するため、競合判別指標を用いた「シェアードコントローラ」を車線維持支援システムに導入しました。このシステムは以下の特徴を持ちます。

  • ドライバの操舵トルクと支援システムのトルクの方向・仕事率から競合状態を判別し、ドライバがシステムに抗って操作している競合状態と判断された場合には支援トルクを遮断します。
  • 支援トルクの切り替えによってドライバに違和感や混乱を与えないよう、シグモイド関数を用いて滑らかにトルクを切り替えます。
  • タイヤバースト直後の車線逸脱を回避し、車線に復帰した後には、運転支援システムの負担割合(支援トルク)を徐々に低減させることでドライバの違和感を軽減します。
提案する車線維持支援システム
シェアードコントローラを組み込んだ車線維持支援システムの構成

ドライビングシミュレータ実験の結果、この改良されたシステムを用いることで、非制御時には大きくセンターラインを越えてしまうような危険な状況であっても、車両横偏差やハンドル角の変動が大幅に減少し、安全に車線を維持できることが確認されました。これにより、ドライバの操作性向上と負担軽減の両立が実証されています。

非制御時と提案システム作動時のドライビングシミュレータ比較

非制御時

提案システム作動時

研究助成・サポート

本テーマに関する一連の研究は、以下のご支援を受けて実施しております。心より感謝申し上げます。

  • オートレースの補助事業
    2023年度 小型自動車等機械工業振興事業に関する補助金(公益財団法人JKA):タイヤバースト発生時の運転支援に関する研究 補助事業(No.2023M-271)
  • 公益財団法人 スズキ財団
    2022年度科学技術研究助成:車両動特性急変時の人間オペレータと支援システムとの競合抑制のためのシェアードコントローラの開発
  • 日本学術振興会 科学研究費助成事業
    基盤研究(C),22K04033:制御対象の動特性急変時における人間オペレータの制御特性モデル化と支援システム設計

主要な研究発表

  • 安藝 雅彦, 井梅 拓海, 國枝 航輝, 添野 航也, 堀内 伸一郎, タイヤバースト発生箇所によるドライバ運転行動の検討, 自動車技術会 春季学術講演会(2024) J-STAGE
  • 神谷 武志, 高橋 直希, 安藝 雅彦, 堀内 伸一郎, 視線計測に基づくタイヤバースト発生時のドライバ挙動の評価に関する基礎検討, 日本機械学会 第18回「運動と振動の制御」シンポジウム(MoViC2023)
  • 安藝 雅彦, 髙𣘺 直希, 堀内 伸一郎, タイヤバースト発生直後の車線維持支援システムに関する研究, 自動車技術会論文集 54(6) pp.1177-1184, (2023) J-STAGE
  • 髙𣘺 直希, 安藝 雅彦, 堀内 伸一郎, タイヤバースト発生直後の車線維持支援システムに関する研究, 自動車技術会 春季学術講演会, (2023)
  • 髙𣘺 直希, 安藝 雅彦, 堀内 伸一郎, タイヤバースト発生時の運転支援トルクによる車線維持制御の有効性 自動車技術会論文集 54(3) pp.509-514, (2023) J-STAGE
  • 高橋 直希, 安藝 雅彦, 堀内 伸一郎, タイヤバースト発生時の運転支援トルクによる車線維持制御の有効性, 自動車技術会 秋季学術講演会(2022)
  • Masahiko AKI, Investigation of Vehicle and Driver Behavior during Tyre Burst using Driving Simulator, Proceedings of The 26th IAVSD International Symposium on Dynamics of Vehicles on Roads and Tracks, (2019)
JKA 補助事業
PAGE TOP